はじめに:8.7%という数字、他人事ではありません
厚生労働省の最新の調査(令和5年上半期雇用動向調査)によると、日本の一般労働者の離職率は8.7%にものぼります。これは、およそ11人に1人が半年間で職場を去っている計算です。
「せっかく育てた社員が、すぐに辞めてしまう…」
「人手不足が続き、現場が疲弊している…」
この悩みは、今や日本中の企業が直面する、避けては通れない経営課題と言えるでしょう。
もし、従業員の定着率を高めるための制度導入の費用を、国が支援してくれるとしたら?
この記事では、中小企業の離職率低下を目的とした**「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」について、その具体的な内容から、今多くの企業が課題としているカスタマーハラスメント(カスハラ)対策への応用方法**まで、公式情報に基づいて徹底的に解説します。
1. 人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)とは?
この助成金は、事業主が従業員の離職率低下を目指して、新たな雇用管理制度(研修、健康づくり、メンター制度など)を導入し、それを適切に運用した場合に、その経費の一部を助成する制度です。
- 目的: 魅力ある雇用管理制度の導入を通じて、人材の定着・確保を図る。
- 対象: 雇用保険の適用事業主であること。
- ポイント: 従業員の心身の健康を守り、働きがいを高める多様な取り組みが支援対象となります。
(出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」)
2. 【注目!】カスハラ対策にも応用できる?具体的な制度導入例
この助成金は、以下の5つの制度区分のうち、いずれか1つ以上を導入・実施することが要件となっています。
- 諸手当等制度: 各種手当(通勤手当、住居手当など)の新設。
- 研修制度: 業務に必要な知識やスキルを習得させるための研修制度の新設。
- 健康づくり制度: 人間ドックや生活習慣病予防検診などの制度の新設。
- メンター制度: 経験豊富な先輩社員が、後輩社員をサポートする制度の新設。
- 短時間正社員制度(保育事業主のみ)
カスハラ対策への応用アイデア
上記の制度の中でも、特に 2.研修制度 と 3.健康づくり制度 は、カスハラ対策に直結させることが可能です。
活用例:
【研修制度として】
- 悪質クレームへの対応スキルを学ぶカスハラ対策研修
- 自身の怒りをコントロールするアンガーマネジメント研修
- 従業員間の円滑なコミュニケーションを促すアサーティブコミュニケーション研修
【健康づくり制度として】
- カスハラ被害によるメンタル不調を防ぐためのストレスチェックの実施
- 産業医やカウンセラーに相談できる相談窓口の設置・運用
これらを**「従業員の定着率向上と心身の健康を守るための制度」**として計画することで、助成金の対象となる可能性があります。
3. いくらもらえるの?助成額と【生産性要件】の重要性
この助成金は、2段階で支給されるのが特徴です。
- 制度導入助成: 計画通りに新しい制度を導入すると、まず 10万円 が支給されます。
- 目標達成助成: 制度導入後、1年間の離職率が目標値を達成できると、57万円が追加で支給されます。
さらに、生産性要件を満たした場合は、目標達成助成の額が72万円に増額されます。つまり、合計で最大82万円の助成が受けられる可能性があるのです。
【重要】助成額を増やす「生産性要件」とは?
「生産性要件」とは、助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていることを指します。
生産性の計算式
生産性 = 付加価値 ÷ 雇用保険被保険者数付加価値の計算式
付加価値 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費 + 動産・不動産賃借料 + 租税公課
この要件を満たすことで、より手厚い支援を受けることができます。
(出典:厚生労働省「生産性要件算定シート」)
4. 目標達成の鍵!「離職率低下」の具体的な計算方法
この助成金の最大のポイントは、制度を導入するだけでなく、実際に離職率を低下させることです。目標は、計画提出前の離職率に応じて、以下の計算式と基準で設定します。
離職率の計算式
離職率 = 評価期間開始から1年間の離職者数 ÷ 評価期間開始日の雇用保険被保険者数
目標となる離職率低下ポイント
計画提出前の離職率 | 低下させるポイント |
---|---|
30%以下 | 1ポイント |
31%~35% | 2ポイント |
36%~40% | 3ポイント |
41%~45% | 4ポイント |
46%~50% | 5ポイント |
51%~55% | 6ポイント |
56%~60% | 7ポイント |
61%~65% | 8ポイント |
66%~70% | 9ポイント |
71%以上 | 10ポイント |
例えば、計画前の離職率が25%だった場合、目標離職率は24%以下となります。このように、自社の状況に合わせて具体的な目標を設定し、達成を目指すことが求められます。
5. 申請の5ステップと注意点
申請手続きは、計画的に進めることが重要です。
- 雇用管理制度整備計画の作成・提出: どのような制度を導入し、離職率をどのくらい下げるか、という計画書を管轄の労働局に提出し、認定を受けます。
- 制度の導入・実施: 【重要】労働局の認定を受けた後に、計画に沿って制度を導入・実施します。
- 制度導入助成の支給申請: 制度導入から2か月以内に、第1段階の支給申請を行います。
- 評価期間(1年間): 制度を運用し、離職率低下の目標達成を目指します。
- 目標達成助成の支給申請: 評価期間終了後、目標を達成していれば第2段階の支給申請を行います。
【最重要】申請時の注意点
- 必ず「計画認定後」に制度を導入する: 認定前に導入・実施したものは対象外です。
- 計画的な運用がカギ: この助成金は、制度導入後の「成果」が問われます。導入して終わりではなく、従業員に制度を周知し、利用を促すなど、計画的な運用が成功のカギとなります。
まとめ:従業員が辞めない会社へ。専門家と始める制度づくり
「人材確保等支援助成金」は、単に経費を助成するだけでなく、企業が「従業員の定着」という本質的な課題に向き合うきっかけを与えてくれる制度です。
カスハラ対策は、従業員の心を守り、安心して働ける環境を作る上で不可欠な要素。この助成金を活用すれば、費用負担を抑えながら、離職率低下と働きがい向上という、二つの大きな果実を手にすることができるかもしれません。
私たちLivelyは、国の様々な助成金制度に精通しており、貴社の課題解決に最適な制度設計から申請サポートまで、無料でご提案します。
「何から手をつければいいかわからない」という方も、ぜひお気軽にご相談ください。