最終更新日:2025年7月2日
「経営層からカスハラ対策を指示されたけど、何から手をつければいいの?」
「マニュアルが必要なのはわかるけど、具体的な作り方がわからない…」
そんな悩みを抱える総務・人事のご担当者様へ。
この記事では、東京都の公式雛形も参考に、どんな企業でもすぐに使える「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策マニュアル」のテンプレートと、作成のポイントを分かりやすく解説します。
【ポイント】
このマニュアルの要点をまとめた**「対応ポケットカード」**を別途作成し、従業員に配布することをお勧めします。常に携帯し、いざという時にすぐ確認できるようにしましょう。(記事の最後に雛形があります)
なぜマニュアルが必要なのか?
マニュアルは、単なるルールブックではありません。以下の3つの重要な役割を果たします。
- 従業員を守る「盾」になる: 対応方針が明確になることで、従業員は一人で抱え込まず、安心して対応できます。
- 対応の「ブレ」をなくす: 誰が対応しても、一貫性のある毅然とした態度を示すことができます。
- 会社としての「姿勢」を示す: 社内外に「カスハラを許さない」という明確なメッセージを発信し、トラブルを未然に防ぎます。
マニュアルに盛り込むべき6つの要素【テンプレート付き】
ここからは、マニュアルに記載すべき具体的な項目を、テンプレート形式でご紹介します。コピペして、貴社の状況に合わせてカスタマイズしてください。
カスタマーハラスメント対応マニュアル
1. 基本方針
【目的】
このマニュアルは、〇〇株式会社(以下、当社)におけるカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)への対応方針を定め、従業員が安全かつ安心して業務に従事できる環境を確保することを目的とします。
【カスハラの定義】
当社は、お客様からの正当なご意見・ご要望と、従業員の尊厳を傷つけ、安全を脅かす「カスハラ」を明確に区別します。以下に該当する理不尽な要求や言動を、当社におけるカスハラと定義します。
- 身体的・精神的な攻撃(暴行、脅迫、暴言、威圧的な言動など)
- 土下座の要求など、社会的相当性を欠く要求
- 長時間の拘束や執拗な繰り返し行為
- 金銭の不当な要求、商品やサービスの無償提供の強要
- 従業員のプライバシーを侵害する行為
- SNSやインターネット上での誹謗中傷
【基本姿勢】
当社は、従業員の人格と安全を最優先し、カスハラに対しては組織として毅然と対応します。お客様との信頼関係を大切にしながらも、理不尽な要求に対しては一切応じません。
2. カスハラ発生時の対応フロー
💭「お客様を目の前にすると、つい『すみません』って言っちゃいそうになるけど、『気持ちへのお詫び』と『事実確認の約束』を使い分ければいいんだな。これならできそう!」
【Step 1】初期対応(一次担当者)
- お客様の話を冷静に聞く: まずは傾聴の姿勢を示し、お客様の言い分を正確に把握します。
- 安易な約束・全面的な謝罪はしない:
- 事実確認なく、その場で「すべて当社の責任です」といった全面的な謝罪や、「無償で交換します」といった安易な約束は行いません。
- <ポイント> まずは、お客様の感情を受け止めることが重要です。**「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」「お話いただき、ありがとうございます。その件、一度持ち帰らせてください」**のように、「気持ちへのお詫び」と「事実確認の約束」を使い分けることで、お客様の興奮を鎮めつつ、会社としての判断の余地を確保できます。これは、あなた自身を守るための大切な一線です。
- 危険を感じたらすぐに退避: お客様の言動に身の危険を感じた場合は、ためらわずにその場を離れ、上長や周囲に助けを求めます。
【Step 2】報告・相談
- 一次担当者は、カスハラが発生した旨を速やかに上長に報告します。
- 報告を受けた上長は、状況を正確に把握し、対応を引き継ぎます。
【Step 3】組織的な対応(上長・担当部署)
上長は、必要に応じて担当部署(人事・総務など)と連携し、対応を協議します。
お客様への回答は、組織として決定した内容を、指定された担当者が伝えます。
悪質な場合は、以下の外部機関との連携をためらわずに検討します。どこに相談すべきか迷った場合は、まず太字の窓口に連絡してみましょう。
<連携する外部専門機関リスト>
- 警察(緊急時):
- 身の危険を感じる脅迫、暴力、長時間の居座りなど、緊急性が高い場合は、迷わず「110番」に通報します。
- 警察相談専用電話「#9110」:
- 緊急ではないが、ストーカー行為や繰り返される迷惑電話など、警察に相談したいことがある場合の窓口です。
- 東京都の無料相談窓口:
- 東京都労働相談情報センターでは、専門の相談員が無料でアドバイスを提供しています。法的な判断が必要な場合は、弁護士相談(予約制・無料)も利用できます。「弁護士に相談するほどか分からない」という場合に、最初の相談先として非常に有効です。
- 弁護士会や法テラスの相談サービス:
- 顧問弁護士がいない場合でも、地域の弁護士会が提供する法律相談(例:30分5,000円など)や、法テラスの無料相談を利用することができます。具体的な法的措置を検討する際の選択肢となります。
- 警察(緊急時):
3. 対応を記録する
💭「記録って面倒だと思ってたけど、後で『言った・言わない』になるのを防いで、自分を守るためでもあるんだ。」
カスハラ発生時には、後の対応や事実確認のために、必ず記録を残します。
- 記録媒体: 通話録音、防犯カメラ映像、メール、チャット履歴など
- 記録様式: 以下の「対応記録票」を用いて、客観的な事実を時系列で記録します。
【対応記録票テンプレート】
- 発生日時:
- 発生場所:
- お客様情報(氏名・連絡先など):
- 対応者氏名:
- 同席者・目撃者:
- お客様の言動(具体的に):
- こちらの対応内容:
- その他特記事項:
4. 社内の相談窓口
カスハラに関する相談窓口を以下の通り設置します。一人で抱え込まず、どんな些細なことでも相談してください。相談者のプライバシーは厳守します。
- 担当部署: 人事部 〇〇
- 連絡先: 内線 XXXX /メールアドレス: xxx@example.com
5. 従業員のケア
会社は、カスハラ対応を行った従業員の心身のケアを最優先します。対応後は必ず上長が面談を行い、必要に応じて産業医やカウンセラーとの面談機会を提供します。
6. 周知・研修
本マニュアルの内容は、全従業員を対象とした研修を定期的に実施し、周知徹底を図ります。
【付録】対応ポケットカード雛形
マニュアルの内容を抜粋し、名刺サイズなどで作成・配布することをお勧めします。
【表面】
困ったときは、まず行動! |
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1. お客様の話を冷静に聞く |
2. 安易な約束・謝罪はしない |
3. すぐに上長・窓口に報告! |
身の危険を感じたら、即退避! |
社内相談窓口:人事部 〇〇(内線 XXXX) |
【裏面】
対応のヒント |
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【NGワード】「すべて弊社の責任です」 |
【OKセリフ】「ご不快な思いをさせて申し訳ありません。一度持ち帰らせてください」 |
【NGワード】「(個人として)なんとかします」 |
【OKセリフ】「会社として検討し、改めてご連絡します」 |
おわりに:マニュアル作りは、未来への投資です
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もしかしたら、「マニュアルを作るのは、やはり大変そうだ」と感じられたかもしれません。
ですが、思い出してください。あなたが今作ろうとしているこのマニュアルは、単なる書類ではありません。それは、**理不尽な要求に一人で立ち向かう同僚を守る「盾」**であり、お客様と誠実な関係を築き続けるための「羅針盤」です。そして何より、「私たちは、従業員を大切にする会社です」という、経営からの最も力強いメッセージなのです。
作成の過程では、現場との調整や、文言の推敲など、地道な作業が続くかもしれません。もし、くじけそうになったら、ぜひこの記事に立ち返ってください。そして、このマニュアルが稼働した未来を想像してみてください。従業員が安心して笑顔で働き、その結果としてお客様へのサービスが向上していく。そんな好循環が、あなたのその一歩から始まります。
私たちは、カスタマーハラスメント対策に取り組む、すべての企業とご担当者様を心から応援しています。