最終更新日:2025年7月3日
「現場のスタッフが、顧客からの過剰な要求に疲弊している…」
「カスハラが原因で、貴重な人材が辞めてしまった…」
「一体どこからが『クレーム』で、どこからが『ハラスメント』なんだ?」
経営者・管理者として、そんな事態に頭を悩ませていませんか?
カスハラは、もはや単なる「困った顧客の問題」ではありません。それは、従業員のメンタルヘルスを蝕み、離職率の増加、サービス品質の低下、ひいては訴訟リスクや企業ブランドの失墜に直結する、経営そのものを揺るかしかねない重大なリスクです。
この記事では、従業員を守り、企業の持続的な成長を守るための**「守り」と「攻め」のカスハラ対策**について、具体的な判断基準と組織的なアクションプランを解説します。
カスハラ対策の第一歩:全社共通の「ものさし」を持つ
まず、経営者として最初にすべきこと。それは、「正当なクレーム」と「悪質なカスハラ」を切り分ける、客観的で公平な「ものさし」を組織全体で共有することです。
基準が曖昧なままでは、従業員は個人の裁量で対応せざるを得ず、疲弊し、不公平感が生まれます。
以下の3つのキーワードは、厚生労働省の公式マニュアルにも準拠した、信頼性の高い判断軸です。これを組織の公式見解として定めましょう。
- 【要求の目的】は正当か? (要求が、商品・サービスへの対価や問題解決ではなく、従業員への攻撃や不当な金銭的利益にすり替わっていないか?)
- 【要求の手段】は相当か? (要求の仕方が、社会通念を逸脱した暴力・暴言に及んでいないか?)
- 【要求の執拗性】は常識的か? (同じ要求が、終わりなく、執拗に繰り返されていないか?)
現場に「武器」を渡す:カスハラ見極めチェックリスト
上記の3つのキーワードを、現場の従業員が誰でも使えるように具体化したのが、このチェックリストです。
これを現場に導入し、「一つでも当てはまれば、それは組織として対応すべきカスハラである」と経営者が宣言することで、従業員は安心して毅然とした対応をとれるようになります。
✅ 【要求の目的】をチェック
- □ 提供した商品・サービスと無関係な要求か?
- (例:「お前の態度が気に入らない」と謝罪を求める、プライベートな連絡先を聞き出す)
- □ 社会通念上、不相当なサービス(土下座、金銭)を要求されているか?
- (例:「誠意を見せろ」と言って土下座を強要する、慰謝料として法的な根拠なく金銭を要求する)
- □ 企業の責任範囲を明らかに超える要求をされているか?
- (例:他の顧客の前で謝罪することを強要する、「お前をクビにしろ」と要求する)
✅ 【要求の手段】をチェック
- □ 暴力や、それを匂わせる言動はあるか?
- (例:体を突き飛ばす、物を投げる・叩く、「殴るぞ」などの発言)
- □ 人格を否定する言葉、侮辱、暴言はあるか?
- (例:「こんなこともできないのか」「バカ」「死ね」といった暴言、容姿や性別に関する侮辱的な発言)
- □ 威圧的な態度(大声、机を叩くなど)はあるか?
- (例:他の客に聞こえるような大声を出す、長時間にわたり罵声を浴びせる)
✅ 【要求の執拗性】をチェック
- □ 長時間にわたり、繰り返し同じ要求を続けているか?
- (例:何時間も電話を切らせてくれず非難を続ける、何度も同じ内容で来店・電話してくる)
- □ 第三者を巻き込む(「他の客に聞こえるように言え」など)言動はあるか?
- (例:SNSでの誹謗中傷をほのめかす、他の客の前で大声を出す)
チェックリストで「YES」がついた時、組織はどう動くべきか
「YES」は、現場の従業員からの「SOS」です。その時、経営者・管理者は、以下の3つの行動を組織として実行することを、全従業員に約束し、宣言してください。
- 1. 絶対に一人で対応させない(エスカレーションルールの徹底)
- 速やかに上長や担当部署に引き継ぐルールを明確化し、周知徹底します。
- 2. 報告者を責めず、その勇気を評価する文化を醸成する
- 問題を報告した従業員を、「事を荒立てた」と責めるのではなく、リスクを未然に防いだとして評価する文化をトップダウンで創ります。
- 3. 最終的な判断と対応の責任は、すべて会社が持つ
- 「あなたの判断は、会社の判断です。安心して対応してください」というメッセージを明確に発信し、従業員を守る盾となります。
全社統一の「お断りフレーズ」で、防衛ラインを標準化する
従業員の個人スキルに依存しない、**誰が対応してもブレない「標準化された防衛ライン」**を構築することも重要です。以下の「お断りフレーズ集」を公式マニュアルに加え、ロールプレイング研修などで習熟度を高めてください。
- 不当な要求を、きっぱりと断る時
- 「大変申し訳ございませんが、弊社の規則上、そのご要望にはお応えいたしかねます。」
- 暴言や威圧的な言動を、制する時
- 「お客様、それ以上の暴言や威圧的な言動はご遠慮ください。このままでは、正常なサービス提供の妨げとなりますので、対応を打ち切らせていただく場合がございます。」
- これ以上の対応は困難だと伝え、話を打ち切る時
- 「これ以上の対応は致しかねます。本件につきましては、会社の担当部署から改めてご連絡いたしますので、本日はお引き取りください。」
最後に:カスハラ対策は、最強の「攻め」の経営戦略である
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
カスハラ対策は、単なるリスクヘッジ(守り)ではありません。それは、**従業員の尊厳と安全を守り抜き、従業員満足度(ES)を極限まで高めることで、離職を防ぎ、サービス品質を向上させ、最終的に顧客満足度(CS)と企業ブランド価値の向上に繋がる、極めて重要な「攻めの投資」**なのです。
従業員が安心して、誇りを持って働ける。
そんな**「選ばれる職場」**を創り上げることこそ、現代の経営者・管理者に課せられた、最も重要な使命の一つではないでしょうか。
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