最終更新日:2025年7月2日
「社長、カスハラで従業員が一人辞めると、採用と育成にいくらかかるかご存知ですか?」
「お客様は神様だ」という古い価値観を放置した結果、ある日突然、数千万円の損害賠償請求が届くとしたら…?
これは、遠いどこかの話ではありません。カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、福利厚生のようなコストではなく、会社の未来を左右する重大なリスク管理なのです。
この記事では、難しい法律の話を抜きにして、経営者が知っておくべき「法的リスク」と「果たすべき義務」について、分かりやすく解説します。
カスハラ放置で会社が負う2つの法的リスク
従業員がお客様からのハラスメントで心身を壊した時、その責任は会社にも問われます。
リスク1:安全配慮義務違反(従業員への責任)
これは、「従業員に壊れた機械を使わせて怪我をさせたら会社の責任」というのと同じです。従業員の「心」が壊れるような過酷な状況を放置することも、会社の責任となります。実際に、数百万円から数千万円の損害賠償を命じられた判例は少なくありません。
リスク2:使用者責任(第三者への責任)
カスハラを放置した結果、精神的に追い詰められた従業員が、他のお客様に不適切な対応をして損害を与えてしまった場合、その責任が会社に及ぶ可能性もゼロではありません。
経営者が果たすべき義務と具体的なToDoリスト
では、これらのリスクから会社と従業員を守るために、何をすべきか。やるべきことは、実はシンプルです。
1. 方針の明確化と周知
- 義務: 「当社は、カスタマーハラスメントを一切容認しません」という毅然とした方針を、社内外に示すこと。
- ToDoリスト:
- ✅ 自社ホームページに「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を掲載する。
- ✅ 店頭や応接室など、顧客の目に触れる場所に、方針を簡潔にまとめたポスターを掲示する。
- ✅ 全従業員が参加する朝礼や会議で、社長自身の言葉で方針を伝える。
2. 相談体制の整備
- 義務: 従業員が安心してカスハラの被害を相談できる窓口を設置し、機能させること。
- ToDoリスト:
- ✅ 人事部や信頼できる管理職を「相談担当者」として正式に指名し、全社に告知する。
- ✅ 相談用のメールアドレスや直通電話など、専用の連絡先を用意する。
- ✅ 「相談しても不利益はない」ことを、繰り返し周知する。
3. 事後の迅速かつ適切な対応
- 義務: 実際に被害が発生した場合、被害者のケアを最優先し、事実関係の調査や再発防止策を講じること。
- ToDoリスト:
- ✅ 被害を受けた従業員を、直ちに顧客対応から外す。
- ✅ 産業医や提携クリニックなど、専門家への相談ルートを確保しておく。
- ✅ 再発防止策を検討する会議を、1ヶ月以内に必ず開催する。
カスハラ対策は、最強の採用戦略になる
今の時代、求職者(特に優秀な若手)は、給与や待遇だけでなく、「この会社は従業員を大切にしてくれるか?」を非常によく見ています。
「私たちはカスハラを許さず、従業員を守ります」という毅然とした態度は、何より雄弁なメッセージとなります。それは、「働きがいのある、安全な職場です」という証明であり、他社との強力な差別化要因、つまり最高の採用ブランディングになるのです。
人手不足が深刻化する中で、従業員が安心して長く働ける環境を整えること。それこそが、持続的な企業成長の最も確かな土台となります。
社長が今すぐやるべき、最初の仕事
あなたの決意は固まりました。では、最初の仕事は何でしょうか?
それは、「カスタマーハラスメント対策担当者」を任命することです。
この重要な役割は、人事部長や総務部長、あるいは最も信頼する右腕の役員かもしれません。大切なのは、社長がその担当者に「全権を委任する」と社内全体に明確に宣言することです。
そして、その担当者に、まずこの記事で紹介した「ToDoリスト」の実行を指示してください。それが、あなたの会社が変わる、記念すべき第一歩となります。
最後に:社長、あなたの決断がすべてを変える
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
日々、重い決断を迫られ、孤独の中で会社の未来を一身に背負うあなたの時間を、これ以上いただくつもりはありません。
ただ、これだけは覚えておいてください。
あなたが今下そうとしている「従業員を守る」という決断は、短期的なコスト削減や利益追求よりも、はるかに尊く、そして長期的に見れば、はるかに賢明な経営判断です。
それは、従業員の人生を守り、その家族の生活を守り、ひいては、あなたが人生をかけて築き上げてきた会社の「魂」そのものを守る行為に他なりません。
その崇高な決断を、私たちは心から支持し、応援しています。
さあ、顔を上げてください。
あなたの会社は、今日、もっと強くなります。